「事業の選択と集中とはどのような意味か?」
「事業の選択と集中は、中小企業や小さな会社にも使える戦略か?」
「中小企業が事業の選択と集中を行う際のポイントは?」
というあなたに、今回は、
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべき3つのこと
について解説いたします。
「市場で1位か2位になれないのであれば、その事業は売却するか整理する」
これは世界最大のアメリカの総合電機メーカーGE(ゼネラル・エレクトリック社)において、業績の立て直しを任されたジャック・ウェルチ氏が、CEO(最高経営責任者)に就任した際に打ち出した方針です。
この方針に従って実行した数々の改革の成果から、ウェルチ氏は後に「20世紀最高の経営者」と賞されるようになります。
ご存知の方も多いと思いますが、ウェルチ氏の功績が紹介されるとき、必ずと言っていいほど出てくるのが「選択と集中」という言葉です。
選択と集中とは読んで字のごとく、何かを選んで、その選んだものに経営資源を集中的に投下することを意味します。
つまり将来的に業界1位か悪くても2位に成長する見込みがあると睨んだ事業を選び、そこに経営資源を集中させることでシェア拡大を図り、業界トップに成長させることで更なる業績アップを目指す戦略です。
この戦略によってGEは大きな飛躍を遂げるわけですが、その一方で、業界1位か悪くても2位になる見込みがないと判断され、売却あるいは整理した事業が、後に大きな市場へと拡大し「手放していなければ…」という事業もいくつかあったはず…。
そう考えると、豊富な経営資源を有している大企業であれば「選択と集中」は有効な経営戦略かもしれませんが、これが中小企業に当てはまるかどうか?は少々疑問が残ります。
事業の選択と集中は戦略として正しいか?
事業の選択と集中は戦略として正しいか?
日本の企業の99%以上を占める中小企業にとって、事業の選択と集中は、経営戦略として立派に機能するのか?
あまりにも有名な戦略だけに、気になる方も多いと想像します。
仮に業績が低迷している中小企業が、ウェルチ氏が行ったように「選択と集中」を採用した場合、果たして業績をV字回復させることはできるのか?
「よし、今季からAとBの事業に絞り込んで、業界1位か悪くても2位を目指そう!」
という戦略を採用すると一体どうなるのか?
あくまで個人的な見解ですが、すでに業界トップである大手企業に太刀打ちできず、根こそぎ体力を奪われることが容易に想像できます。
もちろん中小企業の中にも業界ナンバーワンという肩書を持っている会社はあるでしょうが、大抵は大手企業が業界のトップに君臨していますから、その牙城を崩そうと戦いを挑むのは分が悪いとしか言いようがありません。
では中小企業にとって、事業の「選択と集中」は時代遅れの戦略なのか?
決してそんなことはありません。
大鉈を振り下ろすよう、にいきなり「選択と集中」を実行するのではなく、そのプロセスを細分化して、中小企業にフィットした形に整え、段階的に「選択を集中」を行えば立派に機能します。
そのためには、事業の選択と集中を実施する前に、考えるべきことが3つあります。
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべきこと
- 「今この事業をゼロから始めるとしたら実行するか?」と自らに問いかける
- 既存の事業を細かくチェックして、強みをさらに強化できないか?と考える
- 新規事業を立ち上げる(投資する)際は、社員の人材育成をセットで考える
それぞれ詳しく見ていきましょう。
選択と集中の前に、確認と再考を
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべきこと、ひとつ目は「確認と再考」です。
「選択と集中」では、まず
「どの事業に経営資源を集中させるのか?」
を選択するわけですが、中小企業はその前に行うことがあります。
それは今現在行っている事業の状況を正確に把握し、今後の「事業のあり方」を今一度考える時間を持つことです。
売上や利益、客数や客単価はもちろんですが、
「今手掛けている事業では一体何が起きているのか?」
「将来どのようなことが起きる可能性があるのか?」
を冷静に考えてみるのです。
社会を震撼させる自然災害やパンデミック、経済危機やIT革命など、世の中の生活様式や人々の価値観を大きく変える出来事には特に注意を払い、それが自分たちの事業、製品やサービスにどのような影響を与えるのか?を深く考えることで見えてくるものが必ずあります。
まずは
「今この事業をゼロから始めるとしたら実行するか?」
と自身に問いかけてみましょう。
その答えが「YES」であれば、その事業は継続するに値します。
しかし、仮にその答えが「NO」であった場合、残念ですがその事業を縮小するか、場合によっては廃棄することも検討しなければなりません。
事業への思い入れや、事業の成長する姿を間近で見てきた人には受け入れ難いことかもしれませんが、どのような事業であっても、過去に成功をもたらしてくれたことを同じように続けていれば、いつか必ず下降線を辿る時がやってきます。
たとえ過去に大きな成功を収めた実績がある事業だとしても、
会社の売上の大半を占める基幹事業だとしても、
今はまだ少なからずお客様にご利用いただいているとしても、
まずは気持ちを整理することから始め、勇気を振り絞って少しずつ縮小、あるいは手放す準備を進める必要があります。
事業を縮小または手放すにあたっては、具体的な仮説のシナリオを何パターンか検討し、いかなる状況が訪れても、落ち着いてすぐに行動できる準備を整えておきましょう。
本来は期末や閑散期を利用して、何か大きな出来事が起こる前から、今行っている事業の現状把握と今後の方針について毎年チェックする機会を設けておくことがベストです。
選択と集中の際に、強化と縮小を
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべきこと、2つ目は「強化と縮小」です。
「強化と縮小」とは、今ある事業の強みをさらに強化し、弱みを縮小あるいは切り離し、ひとつの事業内において「選択と集中」を行うという考え方です。
複数ある事業の中から単に何かの事業を選択して、そのほかの事業を手放すのではなく、まずは今行っている事業内容や市場の変化を細かくチェックします。
特に、
他社との差別化を図る自社独自の強みに変化はないか?
は、入念にチェックしましょう。
そうすることによって、
「どの事業を選択してどの事業を手放すか?」
という極端な判断を避け、
「各事業のどこに力を入れて、どこを縮小または切り離すのか?」
を見極めるのです。
自社の強みだけを残して弱みを捨て去り、最小の努力で最大の成果が生まれる状態に最適化する、あるいは、競争力が低下して、自社の強みが全く感じられなくなった事業は手放す。
これが中小企業が取るべき「事業の選択と集中」です。
「選択と集中」を行うときの注意点は、必ず理由を明確にして社内に公表すること。
とりわけ、実際に事業に携わっている社員には説明会を開いて、その事情と経緯、今後の方針と未来のあるべき姿を、責任者の口から丁寧に説明する必要があるでしょう。
事業を手放すことになれば、多くの社員が反対する可能性がありますから、誰もが腹落ちできる理由をわかりやすく伝えることができるように、入念な準備が必要です。
時には社内に衝撃が走るほどの変化が起きることを想定し、事業を手放すボーダーラインとなる基準をあらかじめ決めておいて、その基準を社員間で共有しておくと良いでしょう。
人員が少ない中小企業にとって、社員の気持ちがバラバラになることが、会社にとって最も大きなダメージとなります。
たとえ時間がかかったとしても、社員がある程度納得するまで丁寧に説明しましょう。
社員が一致団結していれば、大抵のことは乗り越えられます。
選択と集中を機に、投資と育成を
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべきこと、3つ目は「投資と育成」です。
中小企業が新規事業を立ち上げる時、目の前に立ちはだかる最も大きな問題の一つに
「リソースの不足」
が挙げられます。
どんなに良い事業アイデアや事業計画を描いても、それを実行する社員がいなければ、実現は愚か、着手さえもできません。
私も過去に勤めていた会社で、何度もそのような経験をしました。
つまり
「やりたいことは山ほどあるけど、手の空いている社員が一人もいない」
という状況です。
この記事を読んでいる皆様にも、お心当たりがあるのではないでしょうか。
このような状況から新たなイノベーションが起こる可能性はゼロに等しいですから、どうにかしてこの状況を打開しなければ、継続的に会社が成長し続けることはありません。
中小企業が事業の「選択と集中」を実行する時、「投資と育成」を見据えて行う理由はここにあります。
中小企業にとって事業の「選択と集中」を行うということは、
新事業立ち上げへの投資と、
新規事業立ち上げに伴う社員の育成を、
セットで考えなければなりません。
つまり、事業の「選択と集中」によって、今行っている全ての事業を見直すことで、費用対効果を考慮した事業のスリム化を実行し、それによって新事業立ち上げに充てる人員を確保するのです。
そうすることで、毎年新たな新事業立ち上げを実現することができますし、それによってイノベーションが生まれる可能性も飛躍的に高まります。
このサイクルを会社の年間計画に組み込んで、毎年決まった時期に行うと、事業の「選択と集中」という概念が社員に浸透し、実行する際も社員から理解を得やすくなるでしょう。
加えて、各事業に取り組んでいる社員たちは、自身が担当している事業に少なからず愛着がありますから、携わっている事業が縮小あるいは廃棄されまいと、今まで以上に努力するようになります。
事業の「選択と集中」は、将来的に見ると大きな成果を上げるものの、実行する時やその直後は少なからず会社に負荷がかかりますから、「やる必要がない」に越したことはありません。
そういう意味においても、事業の「選択と集中」を年間計画に入れて、社員の奮起を促すことは会社にとって大きなプラスになることはあっても、マイナスに作用することはないでしょう。
まとめ
今回は、
「中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべき3つのこと」
について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
忘れないように、もう一度おさらいしておきましょう。
中小企業が事業の選択と集中を行う前に考えるべきこと
- 「今この事業をゼロから始めるとしたら実行するか?」と自らに問いかける
- 既存の事業を細かくチェックして、強みをさらに強化できないか?と考える
- 新規事業を立ち上げる(投資する)際は、社員の人材育成をセットで考える
事業の「選択と集中」は、運用の方法さえ間違えなければ、中小企業にとって大きな成果をもたらします。
先に述べたように、「選択と集中」は会社の事業の状況を正確に把握する機会となり、同時にそれぞれの事業におけるUSPを見直す機会となり、新事業立ち上げやそれに伴う人材育成、ひいてはイノベーションを生み出すきっかけとなります。
「選択と集中」を社内に浸透させるためには、それを定期的に行うこと、つまり習慣にすることが成功する秘訣です。
ある日突然、社長が
「売上が低迷しているので、事業の選択と集中を実行しよう!」
と言い出しても社員は戸惑うだけですから、できることなら売上や利益、客数に陰りが見え始める前に、中小企業に適した「選択と集中」を年に1回、定期的に実施することをオススメいたします。
すでに「業績が低迷している」「集客が芳しくない」という会社様は、今からでも遅くはありません。
「選択と集中」という考え方を、自社に適した方法で取り入れて見てはいかがでしょうか。
中小企業は限られたリソース(人・お金・設備など)を使って「いかに効率よく利益を生み出せるか?」が勝負どころと言っても過言ではありません。
私も中小企業で20年以上勤めましたから、その点については骨の髄まで理解しているつもりです。
大企業には大企業のやり方があるように、中小企業には中小企業のやり方があります。
世間でもてはやされている経営理論やビジネス手法を取り入れる際も、
「なるほどそういう方法があるのか」とそのまま実行するのでもなければ、
「これは大企業の考え方だから」と切り捨てるわけでもなく、
まずはそれらの根幹を成す考え方をしっかりと理解した上で、その理論や手法を
「自社に適用させる場合はどうすればいいか?」と考えてみましょう。
最後にもうひとつ。
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ということで、今回はこの辺で。
最後までお読みいただき、ほんとうにありがとうございました (^.^)